宮部みゆき『孤宿の人』上・下、新潮文庫、2009年
讃岐国「丸海藩」に次々と降りかかる災難や凶事。捨て子同然に置き去りにされた九歳の「ほう」をめぐる事件の数々。なんて、本の内容の紹介ですけど、
ちょっとこれまでの宮部さんの時代物とは雰囲気が違います。
武士の体面、幕府の罪人を預かる重圧(粗相があってもいけないし、かといってお客さんではなく・・)、そんな小さな藩の幕府に対する遠慮、などなど、いい感じで書けてます。
武士って堅苦しいですよね。ホント見栄と体面ででき上がってます。
武士の家に生まれて幸せだったのかな〜、って(武士の研究を続けているフナツとしては)思います。藩(組織)の存続のために個人が抹殺される、現代の日本にも通じるところがあります。派閥争いとかね。
そういうところに、素朴でひたすら生きることに一生懸命な九歳の女の子「ほう」と、これもまた純粋な、十七歳の女の子「宇佐」が絡んで、物語は進んでいきます。
上巻で淡々と進んでいた物語が、下巻で一気に波瀾万丈になるところも面白いです。
実は、上巻と下巻を別のところで買ったものですから(古本をAmazonで)、上巻を読んでしまってから、下巻が配達されるのが待ち遠しかったです。
もうこれから別々に買うのをやめようと固く決意しました。
そんな感じでとても待ち遠しかったものですから、下巻は一気読み。もったいないから読むのをここでやめよう、明日にとっておこう、もう本を閉じるんだ、ともう一人の自分が叫んでましたが、結局最後まで手放せませんでした。ほんとにね〜、コスパ悪いですよね。もっとじっくり楽しまないと。おかげで仕事に手がつかなかったし・・。
ははは、そんなことはいいんです。
ただ、宮部さん描く架空の藩、もう場所と名前で「丸亀藩」をモチーフに、ってわかるんですが、すこ〜し設定に無理があったかなとも思います。でも、ネタバレになるといけないのであまり書けませんが、加賀様がなかなか味のある人物ですごく良かったです。気難しい人物を、天真爛漫な主人公が徐々に人間らしくしていくってのは「少女パレアナ」に通じるな〜って思いました。宮部さん、絶対「少女パレアナ」読んでると思うし。
「ほう」は天真爛漫ってほどじゃないんですが、ひたむきさや、まったく計算高くない、打算のない人って、思わずこちらも本音で接してしまいますよね。そういうところを描くのが宮部さん、ほんとに凄い。
そして、最後の最後、「ほう」の名前のところで泣けました。(これはぜひ読んでからのお楽しみで)