その他(日本)

『マナは海に向かう』(2013.9.11 tanakomo

 

喜多嶋さんの小説は(あ、そろそろ出そうかなんて)思い出したように(忘れた頃に)出版されるので、本屋さんで見かけた時は即買いです。もう30年越しのおつきあいですね。

喜多嶋さんの本は、おもしろくて、しみじみ泣かせて、読後感爽やか、というお徳用本です。

救いようのない悪者や、不条理、残虐さなどはまったくなくて、だいたいいつも主人公がとても魅力的で(若い溌剌とした女性、それも体育会系が多い)、さまざまな事件やエピソードとともに成長していく、そんなストーリーです。

同じようなストーリー展開なんだけど、どの本もとりあえずハズレ感がないという感じでしょうか・・・。(ちょっとカルいという批判もあるけど、フナツはあまり重い本は好きじゃないので・・)

これは夏にプールサイドで読もうと思って買い(ホントそんな雰囲気なんです)、読み終えてブログにアップしようと机の上に置いてあったのが、そのうち他の本に隠れてしまい、今日「あれー、あの本どこにいったっけなー?」と他の本を探していた時に偶然見つけたのでアップしています。

というか、最近忙しくて全然本の紹介をアップしていなかったので、今日はいくつかアップしてますね。

もともとこのブログは読書日記なのだ!!とひとりで力んでもしょうがない・・・。

本の内容などは下のサイトをクリックしていただくとして、読んでて肩が凝らない、サラリと読めてちょっと泣けて、そして、明日も頑張ろう、という気にさせてくれるような本が読みたいなと思ってる人へお勧めです。

 

 

 

 

『和菓子のアン』(2013.3.10 tanakomo

 

本屋さんで見つけて、甘い物好きなフナツとしては即衝動買いしてしまった本です。

題名がいいですよね。

あー、でも、知らない人もいるかもしれないので、<あえて>書きますが、少年少女向け文学の名作『赤毛のアン』のもじりですね。

ここでちょっと余談です、
今、「えー、そんなの、知らない人いないでしょ??」と思った、30代後半から50代の方々、それは要注意ですよ。

あなた方の常識が今のワカモノの常識だと思ってはいけません。

「もちろん、世代によって常識が違うことくらい、そんなことはわかってますよ」と、またまた、今思ったでしょ?しかし、そういう人に限って「でも常識は常識よ、そんなのわかりきってることじゃない」と同じ口から出てくるのです。

この二つの考えはかなり矛盾しています。

「こんなこと、わざわざ言わなくてもわかってるだろう」と思って言わない、それが美徳だと信じて生きてきた人、そんな謙虚な人ほど、ワカモノとコミュニケーションがとりづらくなっているのかもしれないとフナツは思います。

ぜひ、回りの10代後半から20代前半の、男女を問わず、ワカモノに聞いてみてください。

「『赤毛のアン』って知ってる?」

フナツの予想として、
・「は?」ってまったく話にもならない子が1割(というかその子に聞こうとも思わない子・・)、
・「あー、なぁーんか聞いたような気もするぅー、あ、映画の題名?」なんていう子が3割、
・「名前は知ってる、有名な作品でしょ、でも読んだことはない」って子が半数、
・「もちろん読んでます」って子が1割、

そんな感じ・・・。

もちろん、偏差値が高い学校を出た、とか、勉強ができる、ということと『赤毛のアン』を読んだことがある、は、まったくの別問題です。昔はこの両者に相関関係があったと思うけど、今はほとんどない、んじゃないかな、と思う・・・。

そして、そんな『赤毛のアン』を知らない、もしくは読んだことない9割の子に向かって、「ええっ!『赤毛のアン』知らないのぉー?読んだことないのぉ?」と反応してしまうかも・・、と今思った人はいませんか?

胸に手を当てて考えてください。たぶん、こんな反応をしちゃうだろうな、という人がいたら、その人はワカモノからは「敬して遠ざけ」られてしまう人です。

「悪気はないのよ」、「その子をバカにしてるわけじゃないのよ」「いや、ちょっと知らないことに驚いただけでさ」なんて言い訳は許されません。あなたの言動はしっかりワカモノの心に刻み込まれます。

おお、閑話休題。
「和菓子のアン」でした。

そうですね、和菓子には「餡」がございます。
この本の中にもその「餡」をめぐっていろいろな話が書かれています。そこにもひっかけた題名ですね。

そして主人公の名前が「梅本杏子」で「杏子」は「きょうこ」と読みますが、「杏」は「あん」とも読みますね。なので、主人公につけられたあだ名が「アン」(作品中では、誰もそう呼びませんが・・・)、最初はそのものずばり「アンコ」と言われそうだったのですが、さすがに主人公がぽっちゃり体型ということで、アンコはまずいだろうと・・。

さあ、ここでもなぜぽっちゃり体型の女の子にアンコがまずいか、ということも解説せねばなりません。がっしりとした体型じゃなくて、よくあるタイプの、まさにぽっちゃり体型のお相撲さんのことを「アンコ」型というのです。(いちいちうっとうしくて、すいません)

その、甘いもの好き、ぽっちゃり体型、彼氏ナシ、特技ナシ、うっかりするとフリーターになってしまったかもしれない、そんな主人公が、和菓子屋さんで働くことになります。

おもしろいです。実にほのぼのとおもしろいです。
(暴力やセックスやシリアスな話題がないと小説はおもしろくない、と考えている人にはお勧めできませんけど・・)

では裏表紙から、

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デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働き始めた梅本杏子(通称アンちゃん)は、ちょっぴり(?)太めの18歳。プロフェッショナルだけど個性的すぎる店長や同僚に囲まれる日々の中、歴史と遊び心に満ちた和菓子の奥深い魅力に目覚めていく。謎めいたお客さんたちの言動に秘められた意外な真相とは?読めば思わず和菓子屋さんに走りたくなる、美味しいお仕事ミステリー!
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この本を読むと和菓子が食べたくなります。
和菓子屋さんへ行きたくなること請け合いです。

もちろん、茶席で出されるような上生菓子のお話が主ですが、大福やお団子、(フナツの大好きな)おはぎなどの大衆的な和菓子の話も出来てきます。

ユーモアあふれる、さらりと読めてしまう作品ですが、真面目なことも書いてあります。

最後に、作中での店長の名言を紹介しておきましょう。

「洋菓子と和菓子の違いを思い出したから、言っておくわ。それは、とても単純なこと。この国の歴史よ。この国の気候や湿度に合わせ、この国で採れる物を使い、この国の人びとの冠婚葬祭を彩る。それが和菓子の役目」

テレビドラマ化されたら観たいなと思います。

 

 

 

 

『くまモン、どこ行くの?』(2013.2.4 tanakomo

 

もうすっかり人気者・・・。

どのカテゴリーに入れるか迷ったんですが、とりあえずここに。

 

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今、ひそかに人気らしい・・。

 

 

 

 

『とにかくうちに帰ります』(2012.4.12 tanakomo

 

この人の書く文章、けっこう好きですね。
くせになるというか・・。

 

「感動」とか「泣けて泣けて」なんていうのとは程遠いんですが、なんか読んでしまうって感じです。

 

前半の「職場の作法」は、先日アップした『そういうものだろ、仕事っていうのは』とダブってしまいますが、あと二つの作品もなかなかいいです。

 

 

 

 

『そういうものだろ、仕事っていうのは』(2012.4.5 tanakomo

 

週刊文春だったかな、の書評欄で、たまたま津村記久子のことを知って(津村さんのことを好きになった一節は、後から引用します)、そしてその一節が出てくる小説が読みたくてこの本を買いました。

まず本の題名がいいでしょ?

この本は、当代の人気作家がワンテーマで短編競作!!と銘打った、日経新聞「電子版」小説シリーズ、第一弾!です。
(電子版といいながらフナツは紙の本で読んでますけど・・)
「働くことは生きること。世界とつながること」という副題がついています。「働くこと」をキーワードとした短編集です。

今、働いている人たちにぜひ読んでほしいと思い、アップします。

フナツは津村さんが読みたくて買ったので、他の作家の方々の作品にはまったく期待していなかったのですが、どれもそれなりにおもしろいです(じゃあ、この人たちの本を次にお金を出して買うか、といったらちょっとわかりませんが・・、あ、津村さんのは買いますけどね・・)。

津村さんは、何て言うんだろう、地味がOLが会社で仕事をしているときに思うつれづれというか、あーこんなふうに男性社員のことを評価したり、ダメだししてるんだとか、いろんなことを読みながら思います。

でもって、その津村さん描く会社の一員になって机を並べてその情景を眺め、心象風景を共にするというそんな気分にさせてくれる小説なのです。ごくごく自然というか淡々としていて、「あーこんなことあるある」って思わせてくれるのです。フナツは会社員じゃないけど、でも同感できるから、きっと現役の会社勤めの人なら共感できる部分がかなりあるはず。

で、フナツが好きになった一節を紹介しますね。
「職場の作法」と名付けられた、津村さんの作品群の中の「ブラックボックス」という作品に出てくる一節です。
新入社員の河谷君が、田上さんというベテラン女性社員のデスクに悪辣な期限を切りながら、大量の書類を投げ出し、作成を頼んだときの描写です。

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間に合うのは間に合うと思うんですけれどもぉ、難しいですねぇー、という田上さんの声が聞こえて、これはかなり怒っているな、と私は判断した。河谷は、もう約束しちゃったんで、などと墓穴を掘っている。そんな自分の事情を話したところで物事が動くと考えるのは間違っている。もしあなたの望む首尾通りに物事が運んだとしても、それはあなたが望んだからではなく、周囲が仕方なくそれに合わせたからだ。勘違いしてはいけない。自力で処理しない限りは、あなたに望む力など存在しない。(272ページ)
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女性の部下を持つビジネスマン、特に男性管理職のみなさん、そして「なぜか最近周りの女性社員に距離を置かれているような気がする」と思うようになった若手男性社員諸君、必読です。

それから、こんな記述もあります。

「年配の社員が、この会社の女子社員はみんな耳が悪いんじゃないかと愚痴っていたことを思い出す。それは間違っている。あの、だとか、この書類さ、などと自分を呼びつける相手には反応しないだけだ。声さえ出せば相手が振り向くと思いこんでいる連中には」(273〜274ページ)

うう、と思ってしまった方も、必読です。

これから仕事上で何かあったら思わずつぶやいてしまいそうです。

そういうものだろ、仕事っていうのは。

 

 

 

 

『震える牛』(2012.3.9 tanakomo

 

本の帯の言葉を紹介します。
まず表側から

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平成版『砂の器』誕生!
消費者を欺く企業。安全より経済効率を優先する社会。命を軽視する風土が、悲劇を生んだ。
「2012年ミステリーベスト1早くも決定」(さわや書店フェザン店・田口幹人さん)
発売たちまち大大大増刷!!!
これは本当にフィクションなのか?

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大げさだと思うでしょ?
フナツもそう思ってました。ある雑誌の書評欄で紹介されていて、まあおもしろそうだから買ってみるかと読み始めたら、これがすごい!!
ベスト1かどうかはおいといても、他の言葉は全部保証します。

その書評にも、著者の言葉として「これがルポの体裁(つまりノンフィクション)という形だったら絶対出版できなかったでしょうね、これは小説だ、あくまでもフィクションであるという体裁をとったから出版できたのだと思う」といったことが書いてあって、読み終わってほんとうにそうだなと実感しました。

書いてある内容もとても興味深いですが、ミステリとしても素晴らしい。
「うーん、ちょっと犯人の設定が安易じゃないかい、これで解決かい?」なんて思ってたらちゃんと最後にどんでん返しが待っている、ということでミステリ好きの方にもお勧めです。

出張のお供に新幹線の中で読みふける、というのも極上の時間を過ごせると思います。

さて、それでは本の帯の反対側も紹介しましょう。
これらのメッセージは、読んだ後はとてもリアルに響きます。

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地方都市は、なぜ衰退したのか?
子どもたちが口にする加工食品は、本当に安全か?

「ここまでリアルに書いて大丈夫なのか!?」
全国の書店員さんから届いた、賞賛と驚愕のメッセージ!

・「平成版『砂の器』の看板に偽りなし!間違いなく、相場英雄さんの過去最高の傑作にして、代表作!この限りなくノンフィクションに近いフィクションを、一般目線に近い書店という『メディア』が命を賭すぐらいの気持ちで売らなきゃ嘘だと思います。読後、身震いしました」(岩手県、さわや書店上盛岡店、松本大介さん)
・「『車がなければ生活できないなんて、街じゃない』というセリフにドキリとさせられました。『売りたい』という気持ちよりも、『一地方の書店員として、この本を売らなければいけない』という使命感を抱きました」(福井県、紀伊国屋書店福井店、奥野智詞さん)
・「作者の丹念な取材により、ここまでリアルに地方の実情を描いてしまった・・・・これ、出版して大丈夫ですか?」(福島県、宮脇書店ヨークタウン野田店、熊坂敏光さん)
・「今の日本ってこのくらい、恐いことに、きっとなっていますよね。地方の問題、食品産業の恐い裏側、そして、消費者の過剰な反応。お互いがお互いを信じられなくて、ちょっとずつ狂っていく歯車に、ぞっとしました」(東京都、文教堂書店浜松町店、大浪由華子さん)
・「めっぽうおもしろい、でも、単純におもしろいだけでは済まされない、重い内容です。確かに本書のリアリティは圧倒的で、これはフィクションであって欲しい、と何度も思いながらの読書でありました」(静岡県、戸田書店、杉本博さん)

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現在の日本の社会の裏面を描いた小説です。
でも小説自体は決して暗くなく、陰惨でもないです。
内容は救いようがないけど、描き方は暗くない。基本的に著者はそういった世の中にも光明を見るという形で書いているので最後までおもしろく読めます。